以前ブログでメンタルが落ちたときに読むオススメの本を募集したところ、何冊かご紹介いただきました。
今回読んだのは、その中にあった川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』。紹介いただいたのは真昼の幽霊さんです。
この本を紹介していただきありがとうございました。ものすごくいい小説で、ただいま感動したての心でこれを書いています。
読み終えてみて思ったこと。
美しいというか……しっとりとした、静けさのあるほのかな恋愛でした。終わり方もとてもよくて、量が少ない品のいい食事をいただいたような、そんな感覚です。
校正の仕事をやっている30代女性が、50代の男性と出会う物語です。
ザ・恋愛!という感じではなく、進行がものすごくゆっくりです。ゆったりしているぶん、心の繊細な動きが事細かに描写されています。
いったいどう書けばこんなふうに文字だけで読者に伝えることができるのだろうと、書かれている文章をマジマジと見つめても感嘆するばかり。
まるで複雑なカットの施されたガラス工芸品の花瓶のような、そんな文章構成でした。
ここに出てくる2人もまた、とてもいいんですね。普通の(?)人とはちょっと違って、あまり人とはしゃべらないというか、そういうのが苦手なようです。
自分の気持ちをどう伝えたらいいのかがわからない、何なら自分の気持ちすらも把握できないと感じている人が読むと、作品のいたるところ自分をみつけてしまうかもしれません。
タイトルの表現もステキです。すべて真夜中の恋人たち。日本語としてどこかおかしいけれど、その少し違う感じがこの物語の魅力だと思います。
人の感情、人間関係、人生の歩み。そういったものは意味がハッキリしているものではなくて、矛盾していたり歪んでいたりするものですから。
なんかね、見た目はパッとしない箱なんだけれど、開けると今にも音が止まってしまいそうな繊細なメロディの鳴るオルゴールボックスのような……そんな1冊でした。