またひとつ、終わってしまいたくない世界が閉じてしまいました。
村上春樹『海辺のカフカ』の感想です。
あらすじ
「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」――15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真……。
15歳の少年を中心に、世界と世界が結び合わさる。入り口が開かれ、そして閉じる。
ネコと会話ができる老人ナカタ。トラック運転手の星野青年。15歳のまま時が止まった佐伯さん。
これは人の生き方の作品だし、この世とあの世の結び目の話でした。
感想
現実世界でもよく、こっちの世界とあっちの世界、という言われ方をしますが、もしかしたら違うのかもしれません。
こっちの世界の中に、あっちの世界があり、あっちの世界の中にこっちの世界があるのかもしれない。
1度読んだだけではよくわからないのも、この作品の魅力だと思います。
何回か読むことになる、というより忘れたころにまた読みたくなるような、そんな1冊でした。
人間にとってほんとうに大事なのは、ほんとうに重みを持つのは、きっと死に方のほうなんだな、と青年は考えた。死に方に比べたら、生き方なんてたいしたことじゃないのかもしれない。とはいえやはり、人の死に方を決めるのは人の生き方であるはずだ。
今から百年後には、ここにいる人々はおそらくみんな(僕をもふくめて)地上から消えて、塵か灰になってしまっているはずだ。そう考えると不思議な気持ちになる。そこにあるすべてのものごとがはかない幻みたいに見えてくる。風に吹かれて今にも飛び散ってしまいそうに見える。
僕は自分の両手を広げてじっと見つめる。僕はいったいなんのためにあくせくとこんなことをしているのだろう? どうしてこんなに必死に生きていかなくてはならないんだろう?
「あなたに私のことを覚えていてほしいの。あなたさえ私のことを覚えていてくれれば、ほかのすべての人に忘れられたってかまわない」