遠方の本屋さんではじめて見かけて、気になったけどそのときは買わなかった。
その後ずっと読みたいと思い続けて、結局ネットで購入。本はピンときたら買ってもいいかもしれない。
感想
『人生ミスっても自殺しないで、旅』。
まず、このタイトルがいいよね。
この本は、著者の諸隈さんが1ヶ月間ヨーロッパを旅した、その紀行本。
そのとき感じたこと、考えていたこと、実際の出来事などが語られています。
人生ミスったら、自殺しなければならない。そう信じて夢破れた男がでかけた欧州独り旅。道に迷った彼に贈られた言葉は「エンジョイ」。語りえぬ体験談を語り尽くす哲学的紀行エッセイ。
自殺するくらいならその前に旅に出ようと思い、自殺せぬまま日本に帰り、それから十二年経った。その旅路で我が身に起きた出来事をあるがまま語ろうと思い、いま現に、ただそうしているのである。
で、読み終えての感想。
まるで感動的な講演を聞いた感覚でした。素直におもしろかった。哲学のひとり語りはよくわからなくて途中読み飛ばしたりもしたけれど(笑)、それでもいい本だったと思う。
海外には行ったことがない。怖いから。実際、本にも記載されているように、いろいろあるようだし...(^^;;。
でも、やはり基本的には人と人なのだと思った。
店を出る直前、地下のトイレに行ったら、出てきた若者がドアを押さえてくれた。サンキューと言ったら、ユア・ウェルカムと言われた。こういうこと一つ二つで、人は自殺せずにすむのかもしれない。
人の親切に触れるとあたたかくなる。
こんな簡単なことだって、生きる力になりえるんだって思った。
他人の旅日記を読むと、自分も少しばかり日常から離れることができる。
それは星瞬く夜空を仰ぎ見たときに感じるような「自分はなんてちっぽけな存在なんだ」という感覚と近いのかもしれない。
この旅の目的を自他ともにすっかり忘れていないか。そうだ、僕は自殺するために出たのである。いや、しないためだ。一応確認しておくと、実社会から七年離れて書いた小説が、ゴミクズになるほど人生ミスったが、自殺するくらいならいっそ旅に出よう、ということで今ここにいるのである。
旅から帰ってきた諸隈さんは、その後も自殺せず、現在も知り合いの弁護士事務所で12年間働いているそうです。
依然アルバイトのままで世間的には地獄だと語りますが、けっして本人は劣等感を抱いているようなことはなく、むしろこうして本まで出版されています。
控えめにいって、すごい。
装丁も、とてもいいです。しっかりしてます。
わかりにくいですが、青いしおりがとてもいい色。こういうところは地味に大事。
あとこの本には直接関係ないことだけれど、スイスの川はとても綺麗であることがわかった。
僕はきれいな川が好きだし、自分なりのエネルギースポットだと思っています。海外に行くならスイスに行きたいな〜。
チューリヒの川は河床の砂粒までハッキリ見えた。輝きは鏡のようだが透明度が高すぎて覗き込んでも顔が映らない。先進国の都心を流れる川としては例外的に綺麗だった。
(中略)
サンモリッツ、ルツェルン、そしてベルンの川も例外だった。どの川もスイスでは例外なく綺麗だった。
さいごに
僕は人生に失敗したら自殺しなければならない、とは考えていません。
けれど、世の中にはツラくて自死を選ぶ人だっているし、けっしてそれが日常生活から遠い話ではないはずです。
今は失敗したら死ななきゃいけないとは思っていなくても、そのうち考えるかもしれない。
そのときに思い出したいと思って、今回はこの本の紹介と感想を書きました。
死ななきゃいけないなんてことはないんだ。その前に、そうした思いから一歩外に出て、ついでに飛行機にまで乗り込んで、どこか旅しちゃってもいいんだ。ちゃんと帰ってこれるんだ、って。
そういう1人の体験談はとても貴重だし、みんなに共有することもまた大事なことです。先に書いたように、必ずしも無縁な話ではないから。
「人生にイエス」
そう言えれば理想だが、人間には希望が必要だ。この世界のあらゆる苦難を被らねばならないのに、それでも幸福に生きよ。そう言ったヴィトゲンシュタインのようには、僕は強くなかった。
でも、たぶんヴィトゲンシュタインもそこまで強くなかったと思う。希望は語りえぬものだから、語らなかっただけで。