伊集院静の作家としての原点の本を読みました。
読み終えてみて、人生っておもしろいなと思いました。
もう少しこの海のそばにいたかった私は老人にこの辺りに安い宿はないか尋ねた。
「このうしろも古いですが、ホテルですよ」
その人が”逗子なぎさホテル”のI支配人だった。
上京して10年。東京での暮らしを諦めて故郷に帰ろうとした著者は、その前に関東の海を一度も見ていないことに気づき、逗子へと足を伸ばす。そこから作家としての人生が始まった。
7年間もホテル暮らしをしたり、寿司屋の店員に良くしてもらったり、なにかと人に救われていく物語だった。これが小説ではなく実話だというところに説得力がある。まさに「事実は小説よりも奇なり」。
ほんの数分でも、あの海岸を歩く時刻がずれていれば、小説家になってもいなかったろうし、ひょっとしてもうこの世にいなかったかもしれない。人と人が出逢うということは奇妙この上ないと、この作品に関しては思ってしまう。
人は人によってしか、その運命を授からないのだろう。
この前は『人生ミスっても自殺しないで、旅』を読んだけれど、途方に暮れてからも人生は大きく動き出すのだなと感じた。
さすがにこの本と同じような期待はできないけれど、何がどうなるかわからないという、古くから使い回された言葉になってしまうが、本当にそうなのだと思った。
「あんまり考えない方がいい。なるようにしかならないものです。ムリにそうしなくとも、何かがなる時は、むこうからやって来るもんです。あなたは、その方がいい」
このあなたとは伊集院静のことだが、自分にも当てはまるのだと思いたい。