フランツ・カフカの小説は、僕が適応障害で6ヶ月休職していたときに読み始めました。
このブログを立ち上げた時期と同じです。
今回は、いまでもよく読んでいるカフカの小説の魅力について語りたいと思います。
カフカの作品は ”雲” みたい
以前、カミュの『シーシュポスの神話』を読みました。その本の最後に、たまたまカフカについて語られている箇所がありました。
以下は、その付録として掲載されていた「フランツ・カフカの作品における希望と不条理」からの引用です。
はなれた立場から冷静に読む読者にとっては、不安をかきたてる意外な出来事が起こって作中人物を駆りたて、作中人物は、おののきながら執拗に問題の解決を求めるが、じつはその問題が何であるか作中人物はけっしてはっきりとは語らないというのがカフカの小説である。
自然らしく思えるものと異常なもののあいだで、個体と普遍的なもののあいだで、不条理と論理的なもののあいだで揺れ動きながら保たれている平衡関係は、カフカの全作品をとおして見いだされるものであり、またそれがカフカの作品に独特な響きと意味とをあたえるのだ。
あくまで僕の感想ですが、カフカの小説はどれもよくわからないです。全体をとおしたメッセージで出来上がっている感じで、とても象徴的。
たとえるなら雲かな。
曇って、遠くから見たら雲だってわかるけど、実体に迫ろうとして近づくと形が失われるし、手で掴むこともできないでしょ。
カフカの小説って、そんな感じだと思っています。
カフカの作品における希望と不条理について、付録では『審判』と『城』に触れていました。『変身』に並ぶ、カフカの代表的な作品です。
よくわからない感じを伝えたいので、どんな内容か書いてみたいと思います。
『審判』と『城』
『審判』について。
主人公はなにも罪を犯していないのに、ある日突然「あなたは有罪なので裁判にかけられます」と言い渡されます。
なのに平日は銀行員として働き続け、週末に裁判所へ、まるでスーパーに買い出しに行くような感じで赴きます。弁護士を雇ったりはするけれど、そもそもどんな罪なのか、ハッキリさせようという意志があまり感じられません。
現実的に考えたらもっと焦っていいはずなのに、そうはならないのが不思議なところ。
雇った弁護士はこう語ります。
この手の罪で無罪を勝ち取ることはできず、有罪であることは決定しており、したがって我々にできることはその有罪判決が言い渡されるまでひたすら時間稼ぎをすることだ、それしかない、と。
主人公はそれにあまり反抗せず、そうなんだとして受け入れます。
で、そのとおり何とか有罪判決を引き伸ばた結果、それも限界にきたある日、2人の男に街の郊外へ連れて行かれます。主人公も「では参りましょう」とばかりにくっついていき、殺害されます。その際、彼は「まるで犬みたいだ」とつぶやきます。
これでおしまい。
読み終わったときの感想としましては、「……なんだこれ」でした。(笑)
つぎに『城』。
これは、村の長から仕事を依頼された測量士の物語です。
依頼があったからわざわざ遠くから足を運んだというのに、なぜかいっこうに仕事内容を伝えてもらえません。先に到着しているはずの部下2人も見当たらない。代わりに全然知らない男が2人「なにを言っているんですか、わたしたちがあなたの部下でしょ?」と言い張る始末。
もう最初からよくわからない展開です。
発注者である城に住む村の長に連絡しようとしても、村の人たちにジャマされます。「そんなの聞いてない」と言われたり、誰かに相談しても人から人へとたらい回しにされ続けます。
それでもなんとか発注者に接近しようとする主人公の姿。これが、本の最後まで続きます。つまり仕事はできないまま。その間に彼は、村人と仲良くなったり恋愛をしたりします。
最初から続いていたよくわからない感じは、読み進めていけばわかるのだろうと思ってページを繰るのですが……ついに最後の最後までわからないままで終わります。
それが『城』。
ちなみにこの『城』がカフカの長編小説として有名で、書いている途中で亡くなってしまいました。
未完の作品です。
好きなところ
これらのいったい何が好きなのか。
僕は、そのよくわからない感じがとても心地良く感じるのです。
カフカは、現代でいうところの社会不適合者のようなところがあったそうです。
恋人ができたのに、彼女へ最初に送った手紙には「僕はもうだめ、死にたい」みたいなことを書いていたり。その一方で、本人は健康に人一倍気をつかっていたという話もあります。
詳しくは頭木弘樹さんの『カフカはなぜ自殺をしなかったのか?』に載っています。
カフカのほかの小説を読んでいても、毎回思うことがあります。
生きたいけど死にたい、死にたいけど生きたい。それを行ったり来たりして、ときおりフラストレーションがたまってどうにもできなくなり、発作的に気持ちを発散させる先が執筆だったのではないか……、ということ。
読んでいて、ストーリーよりもこれを書いていたカフカの気持ちに僕は注目してしまうのです。
生きることにグラグラしているときほど、その揺らぎに寄り添ってくれるというか、緩和してくれるような気がします。だから、心地よく感じるのです。
『審判』では、自分はなにもしていないのに突然「あなたには罪があります」と言い渡され、強制的に社会からはじき出されてしまうところ。
『城』では、仲間に入れてもらえずうまく馴染めないところ。
僕自身に、それと似た感覚があるのかもしれません。
読んでいて別に嬉しくも喜ばしくもならないけれど、暗くなったり沈んだりすることもないです。
不思議な心地よさだけが読み終わったあとに残ります。だから好きなんです。
さいごに
電子書籍(下リンク)でしたらどれも無料で読めます。
ただ、上の2作品は比較的長いです。
サクッと読める作品としては、下の3つがオススメです。
『断食芸人』は1時間あれば読み終わりますよ。
個別の感想もブログに書きたいなぁ。
ではまた。