日曜日。明日から仕事(転職してまだ3日目)なのに、眠れない。
そこで、この本を読んでいたらおもしろすぎて余計に眠れなくなりました。けっきょく寝たのは2時くらい。
翌朝キツかったのは言うまでもない。
この小説はパニックミステリーです。
舞台はとあるショッピングセンター。そこで客が一斉に避難するという出来事がありました。最初は消防へ火災という通報があり、のちにガス漏れが起きた、人が倒れている、など様々な報告が入るのですが……建物から人がいなくなったあとで、消防隊員が入るとそこには特に何もなく。
「異臭がした」「ぬいぐるみを引きずりながら歩く女の子を見た」などの断片的な証言をもとに、いったいあのビルで何があったのかを解明していくというストーリーです。
面白かったポイント
この本を読んで、僕が面白いと感じたのは次の3つでした。
- 文体
- 入れ子の構造
- 読み進めるごとに謎が増えていく
文体
この本は始まりから終わりまで、ずっとQ&A方式で進んでいきます。つまりAさんが発言してBさんが答える、という質疑応答のやり取りだけで構成されているんです。
情景描写はまったくないし、登場人物の心のなかのつぶやきとか感情描写もありません。それらは読んでいる読者が想像するしかないという、いっけん不親切な構成なのですが……この「想像させる」ことが、ミステリー特有の震えるような怖さを助長させています。
入れ子の構造
これは、全体のなかにいくつもの話が入れ子のように含まれているということです。
全体としては、ショッピングセンターで起こった出来事を解明していくという流れなのですが、避難してきた人たちへのインタビューのなかで、その人ごとの背景や包み隠してきた気持ちなどが炙り出されていきます。
これがもう、小説のつくりとして素晴らしい技量を感じさせる出来栄えでした。それは「ほかの恩田陸の小説をぜんぶ読みたい!」と思わせるほど。
もうね、怖いんですよ。証言している人それぞれが語る、事件当日の建物内の雰囲気だとか、あの日のあとにあった出来事だとか……それだけでもう1冊、2冊と本が物語がかけるようなレベルでした。
謎が増えていく
この小説の一番おもしろいと感じたポイントは、読み進めるほどに謎が増えていくという点です。
小説って、たいていは伏線を回収したりしながらラストへ向かうものが多いと思います。ところがこの本は、その逆。
読み進めるほどに新たな証言者が出てきて、「そんなものはなかった」「むしろ自分のいた場所ではこういう状況だった」といった発言が出てきます。逆なんですよ。読めば読むほど「ん??」ってなる。でも一方的に拡散していくのではないのが著者の力量なんだと思います。
さいごに
多数の被害者、目撃者が招喚されるが、ことごとく食い違う証言。防犯ビデオに写っていたのは何か? 異臭は? ぬいぐるみを引きずりながら歩く少女の存在は? そもそも、本当に事故なのか?
ほんとうに面白かったです。一度読んだら忘れられない、そんな1冊だと思います。
よかったらぜひ手にとってみてください。
ではまた〜。