図書館で借りましたが、読むのに体力がいる内容だったため、最後まで読めませんでした。
それでも、読んでよかったと感じています。
ある思考を知っておく
ルポライターの渋井哲也さんによる著書。
渋井さんの取材の迷いと、真実を伝えようとする使命感が伝わってくる1冊です。
調査報道やルポルタージュは、自分をも当事者にせざるを得ないくらい、相手の世界に入り込む。つまり、「相手の世界に飛び込む」という覚悟が必要だ。
だからこそ、取材した相手が亡くなったときには、私が取材者であることを超えて、悲しみが深い。
自殺を考えている人へのインタビューがまとめられています。
取材中に亡くなった人も少なからずいたようです。
迷いながら取材を続ける渋井さんの姿が、幾度となく描かれていました。
最終章にはこう書かれています。
「死なないでほしい」と言いたい。
無責任だが、それしか言えない。
固定化の危険性
こうしてブログを書いているとき、薄々感じていたことがあります。
それは、言語化するこでで自己をその言葉に固定化してしまい、その認識から抜け出せなくなるのではないか、という不安でした。
そうしたことは実際にあるようで、本書にも次のような一節がありました。
(ネットなどによるコミュニケーションについて)そうした方法は、「生きづらさ」を自覚し、「死にたい」と思う理由探しとしてはある程度は有効性があり、そこから抜け出すヒントを探すこともできる。
一方、「生きづらさ」を自覚したことで、「死にたい自分」を固定化して、その状況から抜け出せないままになることもある。
これを同じことを感じていました。
自己への認識として、ほかにも取り上げられていたのが「心理学」という言葉。
僕も心理学に興味がありますが、その理由は下の内容と重なっているように思います。
このころ亜矢は心理学に興味が出てきて、本を読むようになっていく。そして、過去の自分と現在の自分との関連を考えるようになった。
こうしたネガティヴな感情の時、自分にあてはまりそうなことを知ると、人は、過度に関連づけをしてしまうことが言われている。
どうにかして、心の内側に張り付いている「生きづらさ」の正体をつかもうとするんですね。それは安心したいからです。
けれども一方で、「こうに違いない」と決めつけてしまうと他の見方ができなくなったり、認識を改めるのに苦労したりもします。
そういうことを考えると、僕は心理学からは距離をとったほうがいいのではないか、ブログもそうした内容には一切触れないようにしたほうがいいのではないか、と悩みます。
それに対して、未だに自分なりの答えが出ていません。
生の実感
生きづらさを強く感じると、この世界から離れようと思い始めます。それと同時に、心がバランスを取ろうとしているのか、生への関心が強まります。
本書にあるインタビューを読んでいると、それが精神的な牽引と、肉体的な実感の2種類あるように感じました。
精神的な牽引は、だれかとつながっていたいという思い。思いを共有したくて、その結果ネットの掲示板やこうしたブログに接する人が多いようです。
もう一つの肉体的な実感。生きていることを直接実感するには、やはり肉体的に知るのがわかりやすいです。
リストカットなども該当しますが、性交渉につながるケースが多いのだと本を読んで知りました。
風俗店に勤める人のなかには、「お金がいい」という理由で勤める人もいる。一方で、自分に自信を失った人が、「性」という商品を通じてではあるが、「他人に役立っている」という感覚を抱く人もいる。個人的な経験ではあるが、私が話を聞いたことのある風俗嬢にはそうした人が多かった。
昨今では「パパ活」といったワードも聞きます。
違法的な行為は取り締まるべきですが、違法かどうか、それを助長するかどうかだけに注目しても効果的でないとし、問題をさらに見えづらくするだけなのかもしれません。
さいごに
本書は最後まで読めず、途中で断念しています。テーマがテーマだけに、それ相応の体力が必要だからです。
でも、読んでよかったと思いました。
小説と同じです。行為そのものを見ても理解できなくても、その行為の下にはその人なりの思考がある。日常生活ではそこまで思いやる余裕がなくても、小説なら推し量る時間があります。
本書は取材本なので、書かれていることは全部真実。
時には取材相手の死とも遭遇しながらも、必死に活動していたことが行間からも感じられました。
自殺を遂げた人たち、あるいは自殺を考えてしまう人たちの存在やその考え方を、できるだけ多くの人に知ってほしいと感じた。
ある思考そのものを理解するのは難しいであろう。ただ、ある思考の元で、自らの死を考えてしまう現実を知ってほしいと思った。
生きづらさを抱えた人たちにとっての自殺は、人間関係の問題であり、社会関係の位置づけの問題でもある。
私たちがそうした社会にいる以上、いつだれが鬱状態になり、自殺を考えてしまうかわからない。
それが自分自身かもしれないし、身近なだれかかもしれない。
おおっぴらに口にできないテーマだからこそ、遭遇したときにビックリして逃げ出したり、見て見ぬフリをしてしまいがちです。
そう考えると、こうした本を読むだけでも十分「そのときのため」に役立つと思いました。