恩田陸の『蜜蜂と遠雷』を読みました。ピアノコンクールでの天才たちによる死闘の物語です。
今回はそのかんたんな感想。
まず、これほどパワフルな小説はなかなかないな、と思いました。
物語はピアノコンクールの予選から始まって、本選(決勝)を経て順位が決定するまでが描かれています。
そのあいだの人物たちの心境の変化だとか、緊迫した雰囲気が文章を通してすごく伝わってきました。
恩田陸の作品は『夜のピクニック』を読んでとても印象に残っていますが、本作の同様に記憶に残る小説でした。
特によかったのは、音楽による情景描写。演奏者の奏でるピアノの音色によって、世界観がフワーッと立ち上がるのです。砂浜の風景が見えたり、木々が風でなびいていたり。
音楽については全然詳しくないのですが、そういうド素人にピアノ1つで心を揺さぶるという行いに、読んでいて感動を覚えました。
一方で、自分にはとてもじゃないけど、こんな厳しい勝負の世界には身を置けないとも思いました。(^^;)
たった20分の演奏に何十時間も費やすなんて……。その見返りというか、それだけのことをするに値するのか、勝算がどれほどあるのか、などなど、勝負の前から考えてしまうからです。
そんな僕にはとてもじゃないけどムリだと感じました。
だから、プロのミュージシャンとかすごいなって思います。活躍している人たちはもちろんのこと、夢に破れた人たちだって僕から見たらカッコいいです。
もうムリかもしれない、諦めようって、実際に退くまでの間に何度も考えて、でもその重圧に耐え続けたわけですから。
売れ始めたって、それはそれで世間の目が向けられるようになって自由に動きにくくなるだろうし。有名人も大変でしょうから。
小説とは話がズレましたが、いずれにしてもプロとして一般人を相手にするのはとても大変な裏作業があり、裏激闘があるということ。
その狂気じみた戦いの中でもみくちゃにされても、スポットライトが当たるのは頂点に登りつめたごく少数だけ。
その緊迫感や、だからこそ味わえる勝利の味があるようです。
僕は自分では体験したくないので(とても耐えられそうにない)、本を読むだけで十分だと自分に言い聞かせました。