レイトショーで映画を見てから、すぐに帰ろうと思えば帰れた。電車に乗って3駅で最寄りにつく。けれど、夜の街を歩きたかった。
映画を見ている間に雨が降ったらしい。コンクリートが光っている。
夜の街が好きだ。誰もいない。信号機は機械的に点滅し、たまに車が通るだけ。何者にも邪魔されずに風が通り抜ける。僕も、日中は邪魔だと感じる太陽もない時間を1人で歩く。
歩きながら、もう終わりなんじゃないかと考えた。行き詰まり。
本当に生きていけるんだろうか。肉体的に、なら問題ない。生命活動を維持できるだけのお金を稼ぐことは簡単。問題はそこじゃない。
自宅へ向けて遠回りになるが一本の道路を歩き続けた。すると広い公園に出た。
地図を見て決めたからわかっていたが、辿り着くと思い出した。彼女と別れた。あの売店でソフトクリームを買って、近くのベンチで食べたのだった。たしか桜風味だったが、今思い返すと悲しい思い出の味がした。もうあの時間は戻ってこない。
僕から元気を吸い取り続けるのは、その別れだけではない。連続する不採用通知のメール。数字が減っていく預金通帳。コンビニでバイトを始めるという屈辱。食べたいものもわからない食欲不全。
もう、いろいろと疲れた。映画だって本当は見たかったわけじゃない。ただ何かに没頭したかった。忘れさせてほしかった。この現実を。家に帰りたくない。そこには現実があるから。
誰もいない公園のベンチでこれを書いている。
これから30分くらい歩かないと帰れない。帰りたくないが、明日は朝からバイトがある。
何もかもから離れたい。遠ざかりたい。生きる土俵の一番端まで。